アパレル企業でインハウスデザイナーとして長く働いていると、「スキルの頭打ち」にぶつかる瞬間はありませんか?
ブランドの販促物、カタログ、Webサイト……日々洗練されたおしゃれなクリエイティブを作っている充実感の裏で、ふと「このままアパレルの世界だけでしか通用しないデザイナーで終わるのだろうか」という焦りが押し寄せてくる。
世の中のWebデザインやマーケティングの潮流から取り残されているような、言葉にできない生きづらさを感じる40代のインハウスデザイナーは少なくありません。
今回は、アパレル業界で20年、社内デザイナーとして約10年駆け抜けてきた私が直面した「アパレルデザイン特有の壁」と、そこから一歩を踏み出すために挑戦したリアルな体験談をお届けします。
アパレル企業でのデザインに潜む「スキルの頭打ち」という罠
私はアパレル企業で、店頭のビジュアルをコントロールするVMDをやりながら、社内デザイナーとしてグラフィックデザインやWebデザインを約10年間行ってきました。
だからこそ痛感したのが、アパレル企業の販促物やWebデザインは、一般的なバナーやチラシデザインとは根本的な「思考のルール」が違う、ということでした。
アパレル特有のデザインが持つ魅力と、だからこそ陥ってしまう成長の限界についてお伝えします。
「雰囲気重視」の世界で麻痺していくクリエイティブ
アパレルのデザインにおいて最優先されるのは、いつの時代も「かっこいい」「洗練されている」「おしゃれ」といった抽象的な雰囲気です。
当時の私はアパレルの世界しか知らなかったため、その「雰囲気重視」のデザインに何の違和感も持っていませんでした。唯一、セールの販促物を作る時だけ視認性を意識するくらいで、それ以外の通常期はクリックを促すCTA(行動喚起)の要素などは常に二の次といった具合でした。
しかし10年経った現在、服が売れない時代になり、会社の上層部からも「お金に変わるように」「クリックされるように」という目線は求められるようになってきています。それにもかかわらず、いざ機能性を重視したデザインを提案すると、ブランド側から返ってくるのは決まって「ダサい」「うちのブランドイメージじゃない」という言葉です。
冒険のない狭い世界で止まる成長
結局のところアパレルは、どこまでいっても「かっこいい写真だけで世界観を伝えたい」というブランディングを求める世界なのです。
その結果、デザインの現場で起きるのは以下のような現状です。
- いつも同じお決まりのボタンの形
- ブランドで指定された数パターンのフォント
- トレンドのレイアウトへの挑戦よりも、現状のトーン&マナーの維持
このような環境で、同じブランドの案件だけを扱い続けていると、ある時「自分のデザイナーとしてのスキルが完全に止まってしまっている」と気づき、恐怖を覚えるようになりました。
「世の中には不動産、食品、インテリアなど、全く異なるたくさんの世界がある。もっと色々な業界の案件をこなさなければ、自分のデザインの幅はこれ以上広がらない」
この危機感こそが、私が「会社から飛び出して、フリーランスとして挑戦してみたい」と強く願うようになった原点です。
40代・独身・インハウスデザイナーが「次の一歩」に躊躇する心理
アパレルの外の世界を見たい、個で稼ぐ力をつけて人生のQOLを上げたい。そう決意したものの、20年以上会社員を続けていると、組織を離れることへのデメリットがどうしても頭をよぎり、強力なブレーキがかかります。
- 会社員という強力な特権:税金や社会保険料の半分を会社が負担してくれる安心感。
- 心身の健康を守る環境:1年に1度、会社費用で人間ドックを受け、健康状態をチェックできる手厚さ。
- 生活リスクへの補償:病気や怪我で万が一休むことになっても、傷病手当金などの補償で暮らしが脅かされない。
「この手厚い福利厚生や安定を上回るだけの副収入や稼ぎがなければ、フリーになる一歩は踏み出せない」という思考に陥り、身動きが取れなくなってしまうのです。さらに「副業禁止の会社だから大っぴらには動けない」と言い訳を探してはマインドにブレーキをかけ、また現状維持の毎日に戻ってしまう。
「もし、デザインを独学ではなくスクールで体系的に学んでいて、自分のスキルに絶対的な自信があれば、もっと迷わず思い切って踏み切れたのかもしれない」
こんな考えも同時にありました。実は私は、動画編集についてはスクールで基礎から習得したため、個人の仕事を取ることにそこまで恐怖心がありません。しかし、長く現場でやってきたはずのグラフィックやWebデザインの方が、独学ゆえの「基礎の抜け漏れへの不安」から、外の世界に飛び出す恐怖心が勝ってしまっていたのです。
クラウドソーシングサイトを開いても、その恐怖心からなかなか応募ボタンを押せず、他の人の案件を眺めてはブラウザを閉じる……そんなもどかしい毎日を過ごしていました。
恐怖心を打ち破った「コンペへの挑戦」
そんな停滞した毎日を送っていたある日、「採用されるかどうかは置いておいて、まずは今の自分の力を試すためにコンペ案件へ応募してみよう」と思いつきました。
仕事を取るためというよりは、「自分の自信を取り戻すため」「新しいデザインの練習のため」という、メンタルファーストの心意気でのスタートでした。
動いてみて分かった、忘れていたモノ作りの楽しさ
驚いたことに、いざ手を動かし始めてみると、思った以上に短時間で納得のいく良いものが仕上がったのです。
最近は動画編集(Premiere)ばかりを触っていたため、Illustratorの操作やボタンの位置が変わってしまっており、ネットで検索しながらの作業ではありました。しかし、あれこれと構成を練り、形にしていく時間は純粋に楽しく、「意外と私、まだできるじゃないか」という感覚がじわじわと湧き上がってきたのです。
ここで私が強く感じたのは、頭で考えて足踏みするよりも、「思い切ってやってみる、応募してみる」という行動がいかに大切かということです。
もちろん、ビジネスの効率や生産性の面だけで言えば、採用されなければ報酬が出ないコンペよりも、あらかじめ契約を交わしてからデザインに取り掛かる案件の方が良いでしょう。
しかし、私のように「恐怖心で最初の一歩が踏み出せない」というフェーズにいる人にとっては、まずはマインドを保ち、行動のハードルを下げる意味も含めて、コンペ案件に全力を注いでみるというアプローチは十分に価値があると確信しています。
アパレル出身デザイナーが持つ、唯一無二の強み
他業界のコンペ案件に挑戦したことで、私の中に新しい気づきが生まれました。
それは、アパレル企業の環境では決して出会えなかった「ユーザーのターゲットインサイトを徹底的に考え、クリックや成約に繋げるためのデザインをする作業」が、想像以上に面白いということです。
そして同時に、アパレル出身デザイナーは、外の世界で非常に貴重な存在になれるポテンシャルを秘めていることにも気づきました。
アパレルというトレンドの最先端で揉まれてきた人には、「どんなものがおしゃれで、今っぽいのか」という感覚的なトレンドキャッチ能力が、無意識のうちにストックされています。
世の中の多くのデザイン(不動産や食品、ビジネス系バナーなど)は、ロジックが通っていても「どこか野暮ったい」「デザインが古い」という課題を抱えているケースが少なくありません。
アパレル出身者は、すでに持っている高い美意識や感性をベースに、あとは「ユーザー視点で分かりやすく、行動(CTA)を促す表現」を落とし込むだけでいいのです。この組み合わせができれば、他の業界のクライアントから重宝される、唯一無二のデザイナーになれる可能性を大いに秘めています。
まとめ:40代からのリスタート。まずは小さなことから始めてみる。
40代独身というキャリアの分岐点で、現状の仕事に「スキルの頭打ち」を感じ、将来の暮らしやリスタートへの不安に襲われるのは自然なことです。20年のキャリアがあるからこそ、守りたいものも多く、現状維持のブレーキが強くかかってしまうのも無理はありません。
しかし、アパレルの狭い世界を飛び出して「個で稼ぐ力」や「自由な働き方」を手に入れるためには、どこかで小さな打席に立つ必要があります。
もし「独学のスキルだけで外に飛び出すのがどうしても怖い」と感じるのであれば、一度スクールなどでWEBデザインやマーケティングの基礎を体系的に学び直し、確固たる自信という武器を手に入れてからスタートするのも、時間を無駄にしない賢い選択肢です。
あなたのこれまでのアパレルでの経験や感性は、他業界から見れば大きな強みになります。頭で考えるのを少しだけお休みして、まずは1回、手を動かしてみませんか? 40代からの新しい挑戦を応援しています。


